現代に生きるわたしたちは、食べ物について日常的に深く考えることはないかもしれません。
庶民までもが、飢えて死ぬことを考えずにすむ今のような状態が実現されたのは、第二次世界大戦後のこと。ホモ・サピエンスが登場した30万年前から考えると、実は一瞬なのです。
この記事でわかること
- 人類の祖先が生まれ、今に至るまで
- 食に対してどのような革命が起こってきたのか?
- どのように今につながっているのか?
フェリペ・フェルナンデス=アルメストさんの『食べる人類誌~火の発見からファーストフードの蔓延まで』をもとに、30万年を猛スピードで駆け抜けていきますよ!
目次
調理革命~最初の科学的な発明~
調理とは、すなわち、食べ物を変化させること。
食べ物を変化させる方法はいくつもありますが、最も革命的な発見は、「火」を使えるようになったことです。
サルのような人類の祖先が、山火事や落雷などの自然発火から、ほくほくした木の実やお肉を発見して食べたことからはじまり、自然発火の火を利用し、さらに石や棒を使って自分で火をおこせるようになります。
調理によって、食べ物はやわらかく食べやすくなり、消化吸収がされやすくなりました。
それだけでなく、火はあたたかく、明るく、動物を寄せ付けないので、人々が自然と集まってきます。
真っ暗で獣たちがウヨウヨいる森の中に、明るい火があったら
そりゃ集まっちゃうね。
ちなみに、火以外の食べ物を変化させる調理法に、塩蔵、乾燥、発酵などがあります。
どれも現在も使われていますね。
食べ物の生命維持ではない側面(象徴的価値や意味)の発見
そもそも、食べることの理由は栄養をとり生きていくためでした。
その理由に加えて、象徴的な価値や意味が見いだされていったのです。
これが、「食べ物の生命維持ではない側面」です。
栄養や生きるため以外の意味ともいえるね。
例えば、食べたもののパワーを自分に取り込む、食べ物を神聖視し儀式を行うなどです。
日本でも神聖なお米が神様からの贈り物として、新嘗祭が現代でも行われていますね。
そして食習慣が文化となり、食べる人のアイデンティティにもつながります。
アイデンティティかぁ。
日本人といえばお寿司!みたいなことかな。
牧畜革命
3つめの革命は牧畜です。
牧畜とは、食べるために他の動物を飼育するということです。
牧畜に適した動物はいわば「歩く食糧所蔵室」と考えられていました。
人間の食べられない硬くてまずい葉っぱや生ゴミなどを、肉と呼ぶ食べ物ものに変えてくれるからです。
人間は、家畜にエサをやり、外敵から身を守ってあげることで、食べる・物を運ぶ・土地を耕すなどの役割を果たしてもらうという、相互依存的な関係でした。
現代では、この相互依存的な関係が壊れてしまっていると警鐘をならしている人もいるよね。
農業革命
農業革命は、人類の自然に対する最初の大きな介入だといわれています。
農業は現在も世界の経済を支配しており、世界の食糧の90%を植物が占めています。
90%も!?植物には頭が上がらないね・・
人類は、主にライ麦、大麦、キビ・アワなどの雑穀、米、トウモロコシ、小麦、イモ類を主食にしてきました。
世界に先駆けて植物の栽培をはじめた地域は、パレスチナ、東南アジア、中国、ニューギニア、エチオピア、メソアメリカなどと言われています。
その中でも、東南アジアでは4万9000年前のニューギニア高地でヤムイモやパンダナスが栽培されていたことが遺跡から分かっており、最も早い農耕である可能性が高いといわれています。
世界各地で農耕がはじまり、人口は増え、定住する人が増えました。
身分が生まれる
そして、食べ物によって身分が生まれました。
最も古い、人類の身分をはかる指標は、「量」。
たくさん食べることがすごいことでした。
「肥満」が賞賛されたとは!
さらに富裕層の食卓は、富の分配機能を持っていました。
富裕層の浪費により仕事がうまれ、残り物を分け与えることにより、もらった側は反抗しづらくなるなど、社会の秩序維持にも役立ちました。
時代が進むにつれて、「質」も重視されるようになります。
珍しいもの・高価なもの、凝った調理、独特な儀礼作法のルールなどにより、身分の高さをアピールしていたのです。
珍しい物や凝った料理、お高い料理とかがすごいってなったりするのは
なんか現代にも通じるね。
食べ物の文化交流
大昔から人類は、交易や領土拡大により、違う土地の食べ物などの物や文化を交換・交流してきました。
「伝統料理」は、もともとは自然環境によって制限された材料で作られた料理なのですが、それが習慣、思考、記憶、アイデンティティなどに結びつくので、特別な感じがするのです。
海外旅行に行くとご飯とみそ汁が恋しくなったり、正月のお雑煮論争なんかもアイデンティティに結びついているといえるよね
その一方で、新しいものや知らないものに好奇心のあるのが人間というもの。昔の人々も、すごい、かっこいい、自分にも箔が付くかもといった理由で、威信の高い文化の食べ物を取り入れる場合がありました。
ほかにも、戦争や飢えなどの緊急事態に食べられるものを取り入れるというかたちで浸透した食べ物や、売れるから、自国の利益になるからと取り入れた食べ物もあります。
欧米が世界を植民地化していた時代に、本国と植民地との間で、食べ物が強要されたり、融合したりといったこともありました。
コロンブスの交換
コロンブスの交換とは、500年前の大航海時代からはじまる、食べ物・病原菌などさまざまなものの世界全てにわたる交換のことで、人類史上かなり大きな出来事のことをいうのですが、
参考文献の著者のフェリペさんはこのように述べています。
過去500年に起きた大規模な海上輸送による生物相の交換が、植物の栽培や動物の家畜化の始まり以来、環境史における人類最大の介入であったことに疑いの余地はない。
食べ物でいうと、例えば、砂糖・コーヒー・チョコレートなどは、ヨーロッパ人の需要にこたえるために、アメリカ大陸でのプランテーションや奴隷貿易を活発にしました。
現代の大規模な穀倉地帯であるアメリカ大陸のグレートプレーンズなどもヨーロッパ人によって切り開かれ、小麦が植えられました。
逆に、トマトやじゃがいもなど新世界(アメリカ大陸)から世界に広まり影響を与えた食べ物もあります。
食の工業化
18世紀にイギリスからはじまった産業革命は、次々に世界に影響を与えます。
産業革命によって都市に人があつまり、都市民は食べ物を自給できないので、大量生産ができるようにと食べ物も産業化しました。
さらに度重なる戦争により、遠い戦地に食べ物を運ぶ必要があったため、鉄道などの流通網の発達とともに、缶詰などの保存のきく加工食品が生み出されたりと食の産業化は加速していきます。
加速はさらに続き、食糧生産増大のために、化学肥料や農薬、科学飼料などが生み出され、農業や畜産業はビジネス化しました。
さらにさらに流通の革命により、大量生産した安価な食糧が流通するようになり、世界各地の農業が崩壊します。
1960年代に「緑の革命」という化学的農業革命がおこなわれ、飢饉に対する成果はあがりましたが、生物の多様性や生態系にダメージを与えました。
また、大規模農業には水不足の問題がつきまとっていますし、遺伝子組み換え作物も賛否両論あります。
今なお、世界は飽食と飢餓が同時に存在している状況です。
食の人類史まとめ
人類が火を使うようになってから、現代にいたるまでの食べ物との関わりについて、駆け足でみていきました。
食べ物が人類に与えた変化
食べ物が人類に与えた変化は、
- 調理革命(火の使用)
- 食べ物の生命維持以外の価値が加わる
- 牧畜革命
- 農耕革命
- 社会の階層化(身分がうまれる)
- 食べ物の文化交流がおこる
- コロンブスの交換による大変革
- 食の工業化
食に限ったことではありませんが、現代に近づくにつれて、足がもつれるくらい時間の感覚が猛スピードになっていく変化を感じます。